第16回 病貧争乱・敗因の法則

私の『人から聞いた話』のコレクションは質・量ともに人後に落ちないでしょう。中でも、人の悩み、心配、怒り、迷い等に関するジャンルのネタは群を抜くはずです。私の仕事は、人の悩みや迷いに接することで成立しているのだから当然といえば当然ではありますが。

ある女性が、離婚問題の相談にと弁護士を訪ねることになり、私はそこに立ち会うといったケースになることがあります。例えば一般的なこんなケースを想定してみて下さい。

「ネェおかしいでしょう、ヘンでしょう…」彼女はいかに自分の夫が尋常ではないかを一生懸命に訴えていた。上目使いのその目は必死に弁護士の同調を求めていた。

「あなたがどう思ったかはいいから、事実関係を正確に述べて下さい」

という冷静な言葉は、幾度かその目の訴えを退けた。

「その上…ネェひどいでしょう…」なおも訴え続けながら私の方に向けた彼女の目は、恨めしげに、いかにも不満そうな風情で今度は私に同情を求めていた。被害者意識と自己正当化の権化と化していた彼女に対し、弁護士は淡々と語っていった。

弁護士はそれから、「離婚訴訟の当事者は、たいがい普通じゃあない人を相手にしている」 「離婚訴訟というもの自体がすでに普通という範疇を越えた状況である」「あなたの夫だけが特別に群を抜いたひどい夫という訳ではなく、あなたの夫の尋常でなさ加減は、いわば普通のレベルのひどさである」といった主旨の言葉を並べていきます。

このような弁護士の言葉と態度は、私がある重大な法則を発見するに至るきっかけとなっています。私の日常では、人生における満足な結果に対する成功の勝因を分析する機会より、不本意な結果に対する敗因分析の機会が圧倒的に多くなります。つまり、私のところには必然的に人生におけるマイナスの結果の情報が集まってくるのです。言葉を変えれば、失敗のパターンと、敗因のストックが非常に豊富なのです。そして、それは私にある種の定点観測のような状況を成立させるのです。 それに気が付いたことで、私は一つの法則 『病貧争乱・敗因の法則』 を発見できました。

病貧争乱・敗因の法則
人の成功の仕方は千差万別で実に多くのパターンがあるが、失敗の仕方には必ず関わる共通の要素とパターンがある。
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