 
第33回 憧れノルマ化症候群

自分の仕事の在り方として、私が望ましいと思っている方向性と現実にはかなり大きなギャップがある。本来私は、依頼者に失敗の苦い思いをさせたくないのだ。だから、少しでもよい結果を得るために役立つ情報を、予め提供できればいいなと思っている。しかし、そんな私の希望に反して、私のところは、すでに苦い思いを味わってしまった人達が相談にやってくる率が高いのだ。私はそんな現実に実のところ少々不満ではある。しかし、そんな現実があったからこそ、私は『病貧争乱・敗因の法則』を発見することが出来たのだから文句ばかりはいえない。

最近、様々な事例を、その法則に従って再度整理分析し、視点を変えてデータの観測に勤しんでいたら、またしても新たな法則が見えてきた。私のもとに持ち込まれる相談の内容で、このところやけに多いのが離婚を含む夫婦の問題と、縁談も含む子供の問題である。とりわけ御婦人方にはこの種のネタが多い。

例えばこんなシーンを思い浮かべてもらいたい。

どんよりとした暗雲を背負って、この世の終わりといった風情を漂わせつつ、おもいっきり思い詰めた様子で目の前に肩を落としてうつむき加減に座っている相手に『どうされました?』と私は声をかける。すると、彼女は『ええ』と弱々しい返事をしながら私の顔を見上げ、ふうっと大きく溜め息をつく…。

ひとしきり話し終わったと思える頃合を見計らって、私は『それで、あなたはどうなさりたいの』と相手に尋ねてみる。多くの場合、はっきりとした答えは返って来ない。しかし、それをきっかけとして、彼女の論調は次第に変わっていく。だんだん怒りが込み上げてくるのが見て取れる。実は、そこからが私の一番聞きたい内容になるのだ。この段階になるとひとつの共通点があらわれてくる。みんながみんな(まるで申し合わせたかのように)こう言うのだ『こんなはずではなかったのに…。』 そして、私は心の中で彼女に問うのだ。『では、どんなはずだったんですか?』

そう、問題の根源はここにあるのだ。

今現在、彼女が置かれている状況は、当初彼女が憧れた姿にはなっていないのだ。そしてそんな現実が彼女を苦しめている。

なぜ?

それは、彼女の中ではいつの間にか『憧れ』が自分に対しても、相手に対しても『ノルマ』と化しているからなのだ。『現実は、憧れた通りの姿にならなければならない』『憧れた通りになっていないのは、いけないことなのだ』そんな彼女の思い込みが、彼女の心に不満とストレスの種を蒔いていたのだ。この傾向は、ものごとに対して真面目な人、一生懸命な人ほど多く見られる特徴でもある。

憧れはあくまで憧れなのだ。必ずしも現実のものとはならない。実現しないこともある。『やりたいこと』と『出来ること』の間には必ずギャップが存在するのだ。

だから、憧れを抱く時は、予めそういう覚悟のもとで抱いて欲しい…と、切に願う今日この頃の私である。
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